RESEARCH

研究内容

 

加納研究室は、工業大学という研究環境をフルに活用し、主に「細胞デザイン」における「設計」と「編集」の新しいコンセプト創出と技術開発に重点を置いて、分子細胞生物学と細胞工学的研究を融合させた細胞編集工学を作るのが目的です。

 

私たちの研究室では、細胞膜に一時的に穴を開け、細胞内に分子を導入する方法「セミインタクト細胞リシール技術」を開発しています。細胞膜に穴を空けるために、レンサ球菌毒素ストレプトリジンO (SLO)を用います。SLOは細胞膜にあるコレステロールに結合し、膜上で環状に自己集合することにより、内側に孔が空いた通路(チャネル)を作ります。これにより細胞膜のみに孔を開け、細胞の中にあるオルガネラや細胞骨格の構造はほぼそのまま維持された状態で細胞質を流出させることができます。このような細胞のことを「半分-そのまま」という意味である「セミインタクト細胞」と呼びます(図)。セミインタクト細胞では、逆に、細胞外に添加した様々な分子をこの孔を通過させて細胞内に導入することができます。導入できる分子はタンパク質に限らず、核酸、人工合成・修飾された膜不透過性の分子・化合物など多岐にわたり、様々な種類の分子を同時に、しかもその比率をコントロールしながら導入できます。導入できる分子の数は原理的には制限がないことから、多種類の成分からなる生体分子の混合物である「細胞質」をそのまま導入することもできます。例えば、疾患の患部組織の細胞から調製した「病態細胞質」を、正常な細胞から作成したセミインタクト細胞に加え、細胞質をまるごと交換し、細胞質環境を「病態環境」に改変することも可能になります。

 

興味深いことに、セミインタクト細胞に様々な細胞質を導入後、カルシウムイオン依存的に再び細胞膜の孔が閉じ生細胞にできることがわかりました。一度セミインタクトになり再度孔を閉じた細胞のことを「リシール細胞」と呼びます(図)。驚いたことに、私たちが見つけた最適な条件で作成されたリシール細胞はそのまま生きた細胞として細胞分裂し、継続して培養することもできる「インタクト細胞」そのものでした(ただし、細胞質は交換されています)。私たちが開発を続けるセミインタクト細胞リシール法は、多様な分子を細胞内へ導入できる「細胞内分子導入法」として、また細胞質交換によって細胞に新しい性質を獲得させる「細胞編集」技術として、さまざまな研究分野で新たな展開を迎えています。

 

また、私たちは細胞フェノタイプ解析において、細胞の「形態情報」に注目しています。細胞内ではオルガネラや細胞骨格が独特の構造や細胞内での配置を保ちつつ、タンパク質や脂質が機能する最適な「場」を提供しています。つまり生体分子の機能検証には、細胞内の場所及びその周辺にある分子群が作り出す環境を無視することはできません。私たちは細胞の画像からオルガネラや細胞骨格などの構造情報や生体分子の局在情報を抽出し、分子ネットワークに組み込むことが必要だと考えています。この問題に取り組むため、私たちは東京大学・大学院総合文化研究科の村田昌之研究室と共同研究を行い、「形態・フェノタイプ情報」から「分子ネットワーク情報」を抽出できる新規画像解析技術の開発と、ヒト疾患iPS細胞を使った創薬・再生医療への応用研究・分子ネットワーク解析を進めています。

 

 ヒトiPS細胞から分化誘導した神経細胞(青:核、緑:MAP2、オレンジ:β3チューブリン、赤:nestin)